調整(調節)のための病気
過剰に摂取した成分、有害な成分を身体の外に排出して、自然・宇宙と
バランスをとろうとする作用が疾患となってあらわれるのが、
「調整(調節)のための病気」です。
たとえば、従来良いもの(たとえば玄米や調理野菜)を食べ続けていた
人が、急に悪いもの(たとえばハンバーガー)を食べると、
下痢や胃痛、吐き気といった諸症状があらわれます。
一般の医学では単に食あたりとか胃痛と診断される病気ですが、
実のところ、これらの諸症状は毒素や有害物質の排出作用なのです。
このような調整機能によっていわゆる「病気」が発症しますが、
その調整作用自体は、身体の陰陽を中和し、自然・宇宙とのバランスを
回復させようとするきわめて自然な営みなのです。
病気は自然・宇宙とのバランスを欠いた結果
マクロビオティックでは「健康」の定義も変わってきます。
健康とは、決して「病気を患っていない状態」だけをいうのではありません。
自然・宇宙とみごとに調和している状態
-毎日が湧き出てくるような生気に満ちあふれ、身体が自然に躍動するような
状態、あるいは仕事にも勉学にも、そして他の人たちとのつき合いや遊びにも、
自ら能動的にかかわろうとする状態-
をいいます。
と同時に、心がいつも平穏で、けっして怒らず、他人と争おうとする気が
起こりようもない状態、あるいは自分を愛するのと同じように、他人も愛する
ことのできる状態。こうした心身の全体的なあり方が、マクロビオティクでいう
「健康」なのです。
ですからマクロビオティックでは、こうした心身の両面にわたる「健康」が
損なわれていく状態を、広く「病気」だと考えます。
よく噛んで食べることの効用②
よく噛むことの効用は、なにも身体に対してだけではありません。
心の領域にもとてもいい影響を及ぼすのです。
近年、若者達の情緒不安定がよく指摘されますが、若者にかぎらず
現代人全般の情緒は、程度の差こそあれ不安定になっているのでは
ないでしょうか。その原因のひとつは明らかに甘いものの摂りすぎ
です。しかし、たとえマクロビオティック食でなくとも、よく噛む
という食習慣を身につけて食事を続けていると、不思議なもので、
それまで求めていた菓子類や果物などの間食が欲しくなります。
その結果、甘いものの摂取量が自然と減ってゆき、情緒が安定して
くるのです。仕事が忙しいとき、気が急いているときは、よく噛ま
ずに食事をしがちですが、そんなときほどゆっくりと味を噛みしめ
ながら食べてみてください。それだけで心が落ち着き、仕事の能率
はむしろアップするでしょう。
マクロビオティック食による平常的な情緒の安定は、精神性、ひい
ては人間性そのものの向上にもつながっていくのです。
よく噛んで食べることの効用①
食事をするうえでとても大切なことは「よく噛んで食べる」ということです。
マクロビオティックは、玄米をはじめとする全粒穀物を主食にしますから、
ひと口ごとに通常で50回以上、体調が悪いときは軽度の場合で70~100回、
重い場合は100回以上噛むようにすすめています。
よく噛むことの効用ははかりしれません。
まず、噛めば噛むほど唾液が出て、それだけ消化酵素が増えるため、
消化器系の負担を軽くでき、栄養分の吸収が促進されて身体中にエネルギー
が満ちわたります。同時に噛むという口の咀嚼運動が脳によい刺激を
与えることにもなるのです。
また、唾液には消毒作用があるため、食品に含まれている有害物質(添加物
や着色剤、農薬など)を除去または緩和し、血液を健全な状態に保って
くれます。発ガン性物質についても、時間をかけてゆっくり噛み、唾液の
効用を高めることで、かなりの程度まで中和することができるでしょう。
しかも、よく噛むことは、ダイエットにもつながります。何回も食物を咀嚼
していると、その間に血糖値が高まって早めに満腹感をおぼえるため、
食事の量が少なくてすむからです。
マクロビオティックの流れ
マクロビオティックの哲学や実践は古代ギリシャにはじまり、
中世・近世のヨーロッパの自然派に影響をあたえたのですが、
それを東洋の陰陽の思想と併せて発想されたのは、
石塚左玄先生の「食養」を拡大し、マクロビオティックという
言葉で最初に提唱された桜沢如一先生です。
桜沢先生は戦後、インド、ヨーロッパ、そしてアメリカを
訪れて、ジョージ・オーサワの名でマクロビオティックを指導、
『ゼン・マクロビオティック』という指導書を上梓されています。
「ゼン」とは「禅」の意で、内容的にはかなり求道的・禁欲的
要素の濃い本です。ただ、桜沢先生ご自身は、時代や環境の変化
に対して臨機応変に対応する柔軟な発想の持ち主でした。
『ゼン・マクロビオティック』のなかにも、実践する際の
さまざまな注意書きが記されています。
マクロビオティック食は「粗食」ではない
マクロビオティック食は。かつての貧しい食卓に戻ろうと
するものではありません。
日本の伝統的な食文化や食習慣をベースにした全く新しい
食事法の体系なのです。
マクロビオティック食を実践すると、宇宙の秩序と調和を
する人間本来の身体つきになるわけですから、体重の多す
ぎる人は減り、少なすぎる人は増えるのが道理なのです。
アメリカでは、リッツカールトンによるマクロビオティック
食の採用や専門レストランの増加、あるいは数多くのレス
トラン、カフェテラスがマクロビオティック食をメニューに
加えたことによって、もはや粗食などといった誤ったイメー
ジはありません。マクロビオティック食は本来、楽しく、
美味しく、美しく、豊かにも、簡単にもできる食事なのです。
現代人の顔は退行している
食生活がアメリカナイズされ、現代人が脂肪、砂糖、動物性食品、
人口合成食品、さらには清涼飲料水として水分を摂りすぎる食生活
を送っている結果、さまざまな不調や疾患が体内のあらゆる場所に
発生し、それが身体の表面にあらわれています。
ことに顔に反映された不調や疾患のあらわれ方が、人間の顔つきを
肉食動物のそれに近づけているのです。
そこには、人間本来の優しさや慈悲の要素がありません。
つまり現代人は、私たち人間を形づくった宇宙の秩序、自然の摂理
に反する食物を多量に摂取することによって、巨視的な生命史の過程
を退行しているといえるでしょう。
ファーストフードの食事
小さい頃からハンバーグやスパゲティなどの家庭料理に親しみ、
成長するにつれてファーストフードの食事、着色や防腐剤といった
化学物質の入った出来合いの弁当類になじみ、学校帰りには
コンビニに寄って買い喰いを繰り返す。そんな日本の若い世代は、
かつて伝統的料理に親しんだ日本人とはまったく違った味覚の
持ち主になってしまった観があります。
食生活をマクロビオティック食、すくなくともそれに準じた日本の
伝統食に近づけないかぎり、若者だけではなく日本人全体の心の
健康は悪化の一途をたどることになるでしょう。
マクロビオティックの実践者たち
現在、マクロビオティックの実践者はアメリカを中心に世界中で
400万人以上にのぼります。
マクロビオティックの言葉を知っていたり、部分的に食事に
取り入れている人々はその数倍もあり、とくに知識層の多くの
人々です。完全なマクロビオティック食ではなくとも、それに
準じた食事を意識的に摂っている人の数ともなると、その4、5
倍にもなります。アメリカではマクロビオティック食を自ら
実体験したハリウッドスターたちが、その効用をアメリカ中に
PRしてくれました。美容と健康が資本である彼、彼女たちに
とって、身体の内面を改善してくれるマクロビオティック食は、
一般の私たちが考える以上に価値あるものだったのです。
外出させた重罪犯が刑務所に戻ってきた
ポルトガルのリスボンにある刑務所での話です。
この刑務所では重罪犯の28人を対象に、玄米と味噌汁を主体にした
本格的なマクロビオティック食を実践しました。
当初は玄米や味噌汁に対して少なからぬ抵抗はあったものの、
味覚がなじむにつれて、それまでのまずいパンやおかずより
余程美味しいことが、彼らにもわかってきました。
ことに玄米は、噛めば噛むほどその美味しさがわかります。
彼ら28人は、隙あらば刑務所から脱走してやろうと、常にその機会
を虎視眈々とうかがっているような連中でした。
にもかかわらず、マクロビオティック食に変えて数ヶ月経ったとき、
刑務所では彼らの性格や思考の変化をテストするため、
土曜日に「日曜の午後5時までに帰ってくること」という条件で、
外出・宿泊許可を出したのです。
すると28人が全員、約束どおり刑務所に戻ってきたのです。
刑務所では一人ひとりに対して聞き取り調査をおこない、彼らは
さまざまな理由を述べましたが、共通しているのは「ここでの食事
が楽しいから」ということでした。
マクロビオティック食によって心身が健康になっていき、味覚自体が
徐々に変化してマクロビオティック食本来の美味しさがわかってくる。
だから彼らは、異口同音に「この刑務所では、外では喰えないうまい
ものがタダで喰えるから」と、刑務所に帰ってきた理由を述べたので
した。まさにマクロビオティック食が凶暴な性格を矯正したのです。